「―――ここは…」
ジャスティンが気付くとそこは深いジャングルの中だった。樹々の隙間から月の光が差し込み、辺りを淡く照らし出している。
(僕は何故こんな所に?)
頭の中がハッキリしない。
ふらりとバランスを崩しかけ、そばの樹木に手を掛ける。と、その時、掌に違和感を感じた。
不思議に思って見てみれば、乾いて赤黒く染まった掌。腕の方までべったりと…
手だけでは無い。よく見れば胸の辺りや頬にまで返り血と思われる跡が残っている。
その瞬間ジャスティンは思い出した。
「おぉ…神よ…僕はなんて事を――」
それは悲痛な祈りだった。
デスシティーに赴いたあたりから妙な感覚をジャスティンは感じていた。
それが日に日に増して行き“BREW”争奪戦の後に鬼神捜索を再開したところで、ついに闇に呑まれる様な感覚を感じたのだ。
それからどうしたのか――
ただ、自身の魂が黒く―
黒く染まっていた様な…
次に子供の泣き声で辛うじて正気を取り戻した時、ジャスティンは鬼神捜索をしていた付近の村へ来ていた。
そして信じられない光景を目の当たりにする。
辺りには切り裂かれ、血だまりに横たわる人達の死体――
目前には子供をかばって息絶えた女性の姿が映った。
「お母さぁん!」
子供が泣き叫ぶ。
ジャスティンは震える手を子供に伸ばした。
子供はジャスティンを睨み付け叫ぶ。
「人殺し!!」
自分の腕を見ればギロチンには血が滴っていた。
「これを…私が……?」
子供の泣き叫ぶ声を背にジャスティンはその場を後にした。
人を引き裂いた感触が今も残っている。
「これが狂気の波長…」
そのまま樹木に寄り掛かる。
まさか自分にこんな狂気が眠っていたなんて…
今も気を抜くと頭がおかしくなってしまいそうだった。
ジャスティンは耐えるように瞳を閉じた。
と、その時、前方から何かが近付いて来る気配がしてジャスティンは身構えた。
「よぉ、神父。一人でこんな所まで乗り込んで来たのかよ」
樹々の影からギリコが姿を現した。
両耳に付けているイヤホンからの爆音と、ギリコが暗がりから出て来たため、唇の動きを読めなかったジャスティンには、ギリコが何と言ったのか理解出来ていなかった。
「何故あなたが此処に居るのですか?」
ジャスティンは眉をしかめた。
「あ?アラクノフォビアの本拠地付近で何故もクソもあるかよ!?
センサーに反応があったからわざわざ出て来てやったんだよ。」
「なん…ですって…!?」
確かにあの時、神に背く行為をしてしまった自分には、もう死神様のおそばに居る資格を失ったと思ったが、
よりによって神の敵の本拠地へ来てしまっていたなんて無意識とはいえジャスティンは自身を責めた。
「あぁ!そういう事かよ。」
ジャスティンのいつもと違った様子に、何かに気付き納得した様にギリコは言った。
「お前、ついにやっちまったな?」
ニヤニヤと笑いながら弱みを見付けた風に言われ、ジャスティンはギリコを睨んだ。
その睨みに少しも怯まずギリコはジャスティンに歩み寄り血の付いた右腕を掴んだ。
「この血。大方狂気に耐え切れなくなってその辺の奴ブッタ切っちまったんだろ?」
「!?……っ」
図星を突かれジャスティンは言葉を詰まらせた。
「…っ放しなさい!!」
ギリコの手を振り払う。
ギロチンの刃がギリコの頬をかすめ、赤い筋を作った。
「なんだよ。仲間になりに来たんじゃねぇのかよ?」
「私が?冗談じゃありません!我が神である死神様の敵の仲間になんて、誰がなるものですか!!」
何を言い出すのかとジャスティンは声を荒げて反論した。
『神』という言葉を聞いてギリコは苛立ち始める。
「じゃあ何故ここに来たんだよ?」
「………」
「行き場が無くなって此処に来たんだろうが!」
「………さ…い」
「死神なんざ見限って、アラクノフォビアに居場所を求めて来たんじゃねぇのかよ!!」
「うるさい!」
追い詰める様な問いに堪らなくなったジャスティンはギリコに切りかかった。
しかし、狂気の波長に耐えながらの攻撃に力は入らず、軽く避けられてしまう。
「そんなヒョロい攻撃当たんねぇんだよ!!」
避けた直後に繰り出された鋸足がジャスティンの胸にヒットした。
樹木に叩き付けられる。
瞬間後ろに引いたため、深くは切り裂かれなかったが衣服は裂かれ胸元にうっすら血が滲んだ。
衝撃に呻くジャスティンの懐に素早く入り、ギリコは一番危険である腕を押さえ付けた。
「いつもの調子はどうしたよ?え?神父さんよぉ」
「っ………」
悔しさに唇を噛む。
ジャスティンの避けた衣服の間から爆音の本体がのぞいているのに気付き、ギリコはそれを掴んだ。
ニヤリと笑いながら言う。
「いつもうるせぇ騒音でテメェと世間の間に壁を作って、本当は心の底じゃこんな世の中気に食わねぇと思ってんだろ?」
「違う!死神様の守っておられるこの世界に私が不満に思う訳がありません!!」
どれだけ責めても死神への信仰だけは絶対に揺るがないジャスティンの言葉にギリコは激しく苛立ち始める。
ギリコが死神を嫌いだという事もある。しかし、ジャスティンの心が死神から離れないという事が一番ギリコは頭にきていた。
ギリコ自身はそれに気付いていない。
「違わねぇんだよ!!」
ギリコは掴んでいた本体を地面に叩き付けた。
ジャスティンの耳に続いていたイヤホンも一緒に外れ、叩き付けられた衝撃で壊れて音を失った。
「何を―――!?」
ジャスティンが言いかけた言葉はギリコによって止められる。
激しいキス――
ガリッ
ジャスティンはギリコの唇を噛んだ。
「っ……痛ぇな!」
唇が離れる。
「…何の真似です?」
ジャスティンは静かにギリコを見据える。
ギリコは口角を吊り上げながら言った。
「てめぇの理性の邪魔してやるよ」
今度は首筋に舌を這わせる。
「!?――ヤメッ…」
逃れようと必死でもがくが、力の入らない身体で抵抗してもギリコの腕から逃れる事は叶わなかった。
「じっとしてろよ」
逃がすまいと押さえている腕に力を込め、首筋から先程自分で付けたジャスティンの胸の傷へと舐め下りた。
「………あっ」
ジャスティンから小さく声が漏れる。
必死で耐えていたが、まだ人肌を知らない17の身体は敏感に反応してしまっていた。
押さえている手を片手に掴み直し、ギリコはジャスティンの裂けた衣服の中へと空いた手を滑り込ませる。
敵にいい様に身体を弄ばれる現実にジャスティンは身体を震わせた。
そうしている間にも行為は進む。
次第にジャスティンの身体から力が抜け、ズルズルと崩れ落ちた。
「立って居られなくなったか?良いザマだなクソ神父」
「っこの変…態!」
この時がギリコを睨む事が出来た最後となった。
ジャスティンの強がりがギリコを余計に煽らせる結果となる。
押さえ付けていた腕を放し、ギリコは本格的に攻めに入った。
「っふ……ぁ」
ジャスティンの魂は狂気の波長とギリコから与えられる快感とでつつかれて、徐々に意識が朦朧としだす。もう抵抗出来るのは言葉でしか出来なくなっていた。
「放…せっ!」
「抵抗するから辛ぇんだよ。自分の底にある狂気を認めて解放しちまえよ!楽になるぜ?」
ジャスティンの理性が限界に来た頃、耳元でギリコが囁く――
「俺のものになっちまえよ…」
その瞬間、ジャスティンは声を上げて身体を強張らせた。
叫びが消えると共に全身から力が抜け、ギリコの肩越しに虚ろに空を見上げる。
その瞳には妖しく朱に染まる月が映っていた――
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